AI議事録は暗号化されているか — E2Eと保存時の暗号化の違い

AI議事録サービスのセキュリティページを読むと、保存時のAES-256暗号化と通信時の TLSが必ず書かれています。どちらも本物ですが、どちらもエンドツーエンド暗号化では ありません。これらはディスクを盗んだ相手や通信を盗聴する相手からデータを守ります。 プロバイダーからは守りません。鍵を持っているのがそのプロバイダーだからです。

短い答えはこうです。2026年8月17日時点で、主要なクラウド議事録サービスは会議の 内容についてエンドツーエンド暗号化を表明していません。これは見落としではありません。 通話を文字起こしして要約を書くサービスは、その通話を読まなければなりません。 両者は構造上たがいに排他的です。だからこそ、主要な会議プラットフォームはいずれも、 本当のエンドツーエンド暗号化を有効にした瞬間にAI機能を停止します。

そこで残るのは、なりゆきではなく意識的に決めるべき論点です。どの機械に平文を 見せてよいのか。この記事は、それぞれの答えの代償と、ベンダーが実際に何を作った のかを確かめる方法についてのものです。

セキュリティページの「暗号化済み」が意味するもの

三つの例です。いずれも2026年8月17日にベンダー自身のページで確認しました。

Otter はAWS S3上でのAES-256によるサーバーサイド暗号化を文書化しており、 その鍵自体を定期的にローテーションするルート鍵で暗号化していると説明しています。 プライバシーとセキュリティのページにエンドツーエンド暗号化への言及はありません。 モデルの学習については、学習前に独自の方法で利用者データを非識別化しており、 取り込んだ顧客データは学習から完全に除外していると述べています。

Fireflies は、議事録と文字起こしの保存時の256ビットAES暗号化、通信時のTLS、 さらにSOC 2 Type II、GDPR、そしてEnterpriseでBAAを結んだ場合のHIPAAを挙げています。 Enterpriseでは Private Storage も提供され、顧客が会議データの保管場所を選べます。 セキュリティページはエンドツーエンド暗号化を表明していません。

Granola は、ノートを米国内でホストするAWS Virtual Private Cloudに保存し、 保存時と通信時に暗号化していること、音声は保存しないことを明示しています。 文字起こしはmacOSとWindows上でリアルタイムに行われます。OpenAIやAnthropicなどの 第三者が顧客データで学習することは許可しておらず、組織全体での学習オプトアウトは Enterpriseの管理機能です。ここにもエンドツーエンドの表明はありません。

これらは批判ではありません。サーバーサイド暗号化、SOC 2監査、学習からの除外は 意味のある管理策であり、それを正確に記述するベンダーは、「銀行並みのセキュリティ」 と書いて終わるベンダーより誠実です。論点はもっと狭いところにあります。これらは、 読める状態のデータをプロバイダーが何をするかを 選ぶ ことについての管理策です。 エンドツーエンド暗号化は、プロバイダーに何が できる かについての管理策です。

両者を分ける線

保存時の暗号化はストレージの性質です。データは平文のままプロバイダーの基盤に 到達し、ディスクに触れる前にプロバイダーが持つ鍵で暗号化され、サービスが必要と するたびに再び復号されます。ブラウザでノートを表示するとき、検索を実行するとき、 要約を書くモデルに渡すときです。これが防ぐ攻撃者は、ハードウェアやストレージ だけを手に入れた相手です。

エンドツーエンド暗号化は鍵の性質です。内容はそれを作った端末上で、読む権利を 持つ人々の端末から決して出ない鍵によって暗号化されます。サーバーは暗号文を保存し、 サイズやタイムスタンプ、誰のものかといった説明はできますが、開くことはできません。 その実際的な帰結は、動かなくなるものの一覧です。サーバー側の全文検索はなく、 鍵の材料なしの「ブラウザで表示」もなく、失敗の原因を見るために会議をのぞける サポート担当者もおらず、内容を復旧するパスワードリセットもありません。

最後の項目は最も安価な判定方法であり、詳しくは後述します。

保存時に暗号化された文字起こしを読めるのは誰か

告発の一覧ではなく、この構造が射程に入れてしまう関係者の一覧です。

会議の文字起こしは、この五つすべてにとって異例なほど価値の高い標的です。給与の 話、インシデントの事後検証、顧客名、未発表の計画、そして録音されていると気づく 前に人が口にする一文が含まれます。

AI機能とエンドツーエンド暗号化が打ち消し合う理由

ここが議論に決着をつける部分であり、根拠はプラットフォーム自身の文書にあります。

Zoom。 エンドツーエンド暗号化を有効にすると、AI Companionの機能、クラウド 録画、ライブ文字起こし、会議前後のチャット、ライブ配信、投票とアンケート、 Zoom Apps、Zoom Notes、Zoom Whiteboardが無効になります。Zoomの説明は仕組み そのものです。各会議の鍵はZoomのサーバーではなく参加者の端末が生成します。

Google Meet。 クライアントサイド暗号化を有効にすると、録画、文字起こし、 字幕、「Take notes for me」、「Ask Gemini」がすべて利用できなくなり、電話音声、 ブレイクアウトルーム、ライブ配信も同様です。Googleの記述は明確です。メディアは 各参加者のブラウザが、参加者だけに渡される鍵で暗号化し、Googleのサーバーからは 読めないままになります。

Microsoft Teams。 エンドツーエンド暗号化は、条件を満たす1対1のVoIP通話と、 Teams Premiumライセンスによる予定された会議を対象とします。有効な間は録画、 文字起こし、AIによる要約を利用できず、コンプライアンス録音を使う組織はそもそも 利用できません。

三つすべての下にある規則はこうです。文字起こしを生成する機械は、音声を平文で 見なければならない。 これを回避する巧妙なプロトコルは存在しません。したがって 設計上の問いは「暗号化されているか」ではなく「その機械はどこにあるか」です。 ベンダーのクラウドの中か、それとも、もともと会議に出ていた人の机の上か。

ローカルファーストという答え

文字起こしが自分のコンピューター上で行われるなら、このトレードオフは消えます。 平文はもともと音声を持っていた機械の上に存在し、要約を書くために何かを アップロードする必要はなく、その後に外へ出るものはすべてエンドツーエンドで 暗号化できます。それを読む必要のあるサーバーが存在しないからです。

Speak-Y はその形で作られています。通話はローカルで録音され、 会議にボットは参加しません。これは通話中の他の全員から見える違いであり、 ボットなしで会議を録音するという記事で 別途扱いました。文字起こしは既定で端末上に留まり、音声は処理後に削除され、 自分の端末どうしの同期はエンドツーエンドで暗号化されます。 チームのナレッジベースへの共有も同じ仕組みです。チャンネルの鍵は チームの端末上だけに存在し、メンバーを外すと即座にローテーションされます。 AIアシスタントが内蔵のMCPサーバー経由で会議を読むときも、クラウド上の複製では なく、あなたの機械のライブラリーから読みます。データの取り扱いの全体は プライバシーポリシーにあります。

このモデルの正直な代償は、クラウド型の裏返しです。検索はすべてを索引化した サーバーではなく、あなたの端末の上で動きます。チャンネルから外した同僚に、 フラグを戻すだけでアクセスを与え直すことはできません。そして紛失した端末は 平文の載った端末であり、だからこそ端末のディスク暗号化は任意ではなくなります。

E2Eの主張を試す四つの質問

  1. パスワードを忘れた場合、サポートは文字起こしを復元できますか。 できるなら、 プロバイダーが鍵を持っています。この一問でたいていの場合は決着します。
  2. 会議全体の全文検索はサーバー上で動きますか。 会議の内容に対するサーバー側の 検索には、平文か、平文から作られた索引のどちらかが必要です。
  3. 共有チャンネルから誰かが抜けたとき、鍵はどうなりますか。 「アクセスを取り 消した」はアクセス制御の答えです。「鍵をローテーションした」は暗号の答えです。
  4. 要約を生成したのはどの機械ですか。 答えがクラウドのモデルなら、ストレージの ページに何が書かれていようと、その時点で音声か文字起こしは読める状態でした。

実際にエンドツーエンド暗号化を作ったベンダーは、これらに素早く答えます。答えが 設計から導かれるものだからです。作っていないベンダーは認証をもって答えがちですが、 それは別の質問への答えです。

エンドツーエンド暗号化にできないこと

同じ部屋にいる他の人からは守ってくれません。鍵を持つ人は内容を読み、複製し、 転送できます。文字起こしをチームのチャンネルへ共有すれば、それはチームのものに なります。侵害された端末も守れません。平文がまさにそこにあるからです。メタデータ も隠せません。誰が何をいつ録音し、その大きさがどれくらいだったかは残ります。

そして、そもそも録音してよかったのかについては何も語りません。それは同意の問題で、 法域と参加者によって決まります。一方の同意で足りる地域もあれば、全員の同意を 求める地域もあります。この点は現在まさに争われています。Otterの議事録サービスの 録音のあり方をめぐる併合された集団訴訟は、2026年5月に却下申立てについて弁論が 行われ、その行為が適法かどうかについて判断を示した裁判所はまだありません。 暗号化はそこでの抗弁にはならず、ストレージが暗号化されているからといって、 通話の冒頭で行う告知が任意になるわけでもありません。(一般的な情報であり、 法的助言ではありません。)

ツールを選ぶのであれば、「保存時に暗号化」を答えではなく下限として扱い、文字 起こしがどこで行われるかを尋ねてください。その一点が他のすべてを決めます。 エンドツーエンド暗号化が本当に使えるのか、それともページ上の言葉にすぎないのかも 含めてです。チームのナレッジベースのガイドでは、共有された暗号化済みの 議事録が日々の業務でどう見えるかを扱っています。

FAQ

AIの議事録はエンドツーエンドで暗号化されていますか。

ほとんどの場合そうではありません。主要なAI議事録サービスのセキュリティページに書かれているのは、保存時のAES-256暗号化と通信時のTLSです。つまり鍵はプロバイダーが保持しており、その仕組み上、文字起こしを読むことができます。エンドツーエンド暗号化とは、鍵が参加者の端末の中だけに存在することを指します。2026年8月17日時点で、Otter、Fireflies、Granolaはいずれも会議の内容についてそれを表明していません。

保存時の暗号化とエンドツーエンド暗号化は何が違うのですか。

保存時の暗号化は、プロバイダーのディスク上のデータを守ります。ドライブやストレージが盗まれても中身は読めません。しかし鍵はプロバイダーが持ったままで、画面を表示するとき、検索を実行するとき、要約を生成するときには、そのたびにデータを復号します。エンドツーエンド暗号化はプロバイダーをこの経路から外します。鍵が端末から出ないため、保存されるのは復号できない暗号文だけになります。

なぜエンドツーエンド暗号化とAIによる会議要約を同時に使えないのですか。

要約を書く側の機械が、音声を平文で読む必要があるからです。ZoomはE2EE会議でAI Companion、クラウド録画、ライブ文字起こしを無効にします。Google Meetはクライアントサイド暗号化のもとで録画、文字起こし、字幕、「Take notes for me」を利用できなくします。Microsoft Teamsはエンドツーエンド暗号化された通話で録画、文字起こし、インテリジェントな要約を停止します。両方を得る唯一の方法は、文字起こしを自分の端末で行うことです。

ベンダーの暗号化の説明が本当にエンドツーエンドかを確かめるには。

パスワードを忘れたらどうなるかを尋ねてください。サポートが文字起こしを復元できるなら、プロバイダーが鍵を持っており、その仕組みはエンドツーエンド暗号化ではありません。同じ判定は、サーバー側での全文検索、端末に鍵がない状態でのブラウザからのノート閲覧、障害調査のために担当者が会議を開ける運用にも当てはまります。

エンドツーエンド暗号化があれば会議の録音は合法になりますか。

いいえ。暗号化は録音を誰が読めるかを決めるもので、録音してよかったかどうかを決めるのは録音に関する法律です。同意の要件は法域によって異なり、一方の同意で足りる地域も、全員の同意を求める地域もあります。暗号化された文字起こしにも同じように適用されます。これは一般的な情報であり、法的助言ではありません。